最近のご夫婦関係の相談の一つの傾向として、長年にわたる無視や会話の不存在といったケースが多くなっています。妻が生活上必要な事柄を夫に聞いても、答えてもらえない。夫が子どもの様子を妻に聞いても「あなたには関係ない!」といわれてしまう、などの相談が入ってきます。それぞれの問題には、そこにいたるまでのいろいろな経過があったこととは思いますが、ある意味では、こういった行為は、民法752条に定める「夫婦は同居し、互に協力し扶助しなければならない」という条文に反します。
 夫婦の会話はすべて筆談で、言葉を交わすことはないというご夫婦もかなりの数にのぼるようです。また、メールのやり取りしかできないといったケースもあります。双方が、それを承知で行なっている場合もありますが、多くはどちらかが先に意図的にそれを仕掛けてそれが続くようになってしまっているようです。

 こういった事例は、捉え方によっては「モラルハラスメント」とも言えるようです。人間は、相手に無視され続けると大きな苦痛を感じます。時には、相手の行為によって心を壊してしまうことさえあります。本来、夫婦には相互扶助の義務があります。それを、どちらかが作為的に行なわなければこれは違法ということになります。事例によっては、婚姻を継続しがたい事由として離婚理由にもなり得ます。

 しかし、こういった事例に共通する大きな問題点は、加害側が自分の行っている行為が相手を傷付けていることに、気付いていないことです。また、時には被害側さえもそれに気付いていない事もあるようです。いじめにも似たこういった行為が、今、多くの夫婦間で起きている事を見過ごす事はできません。
 法律の定めを待つこともなく、夫婦とはお互いが協力して成り立つものであるはずです。より良い社会を目指すためには、まずより良い家庭環境を整える事が必要ではないかと思います。それぞれのご夫婦が、まず、自分自身が加害側になっていないかを、相手の立場から冷静に見据える事が大切と考えます。