札幌市豊平区の 行政書士・税理士 溝江諭(みぞえさとし) です。
 
 民主党のマニフェストではごく僅かしか触れられていない税制。そこで、より詳しく記載されている民主党の「政策集 INDEX 2009」から税制改正についての政策を見ていきましょう。
 
『民主党による税制改正』その7 中小企業支援税制です。
 
 
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 これまでお伝えした内容は以下のとおりです。
  
1回目・・・「納税者の視点に立った税制へ」という題で、「税制改正過程の抜本改革」「税・社会保障共通番号の導入」「納税者権利憲章の制定と更正期間の見直し」「国税不服審判のあり方の見直し」
2回目・・・「所得税改革の推進」という題で、「所得控除の整理、税額控除、手当等への切り替え」「給与所得控除の見直し」
3回目・・・「年金課税の見直し」と「住宅ローン減税等」
4回目・・・「給付付き税額控除制度の導入」、「金融所得課税改革の推進」
5回目・・・「消費税改革の推進」
6回目・・・「法人税改革の推進」
 
1 中小企業支援税制
 
 「中小企業は団塊世代がリタイア時期を迎える中で事業承継に不安を抱えており、これを重点的に支援することによって安定的な活動を支えます。
 
 中小企業に係る法人税の軽減税率は当分の間11%とします。
 
 「一人オーナー会社(特殊支配同族会社)」の役員給与に対する損金不算入措置は廃止します。
 
 中小企業はわが国経済の基盤であり、地域経済の柱であり、雇用の大半を支える存在です。このような観点から税制により、中小企業の規模に応じて、その活性化や競争力の向上を支援することは必要です。」
 
 
 日本の企業(法人と個人)の99.7%は中小企業です(注1)。そして、この中小企業に労働者の7割が勤めているといわれています。すなわち、その7割の労働者とその家族は中小企業から賃金を得て生活し、その他の3割の労働者とその家族も、中小企業労働者がその地域に根ざして生活しているからこそ、その恩恵を受けて生活の場を得ているといえます。
 
 まさしく、地域に根ざし、雇用の場を提供しつつ、商品やサービスを供給することにより、それぞれの地域経済を底辺から支えている貴重な存在、それが中小企業なのです。
 
 その中小企業に対する支援として、民主党は次の3つの税制上の政策を掲げています。
 
1事業承継の重点的支援
2法人税の軽減税率の引き下げ
3一人オーナー会社の「役員給与の損金不算入」措置の廃止

 
 事業承継については、既に自民党政権下において、経営承継円滑化法を成立させ(平成20年5月9日)、①民法の遺留分に関する特例、②円滑な承継のための金融支援制度、③相続税や贈与税の納税猶予制度が整備されてきました。特に、相続税の納税猶予制度は、一定の要件の下で、後継者の相続税額のうち議決権株式(相続発生後で発行済議決権株式の2/3に達するまで)の80%に対応する税額を猶予するというもので、円滑な事業承継に一定の役割を果たすものと期待されています。上記の民主党の文章では、以上の制度をどのように改善したいのかよく分かりません。
 
 中小企業への支援と言うからには、もっと分かりやすく、具体的に書くべきでしょう。

 
 2つ目の所得金額年800万円以下の部分に対する軽減税率については、自民党政権下で既に今年平成21年4月1日以後終了事業年度から18%に引き下げられていますが、これをさらに11%まで引き下げようというものです。以前は22%でしたからちょうど半分になります。例えば、所得800万円とすると、現行の税率18%では、法人税と法人住民税を合わせると約170 万円の負担ですが、軽減税率が11%まで引き下げられると、法人住民税も連動して下がるため、約103万円の負担で済むようになります。差引き67万円の減税です。このように黒字企業にとっては今まで以上にキャッシュを多く残せるようになるのでありがたい政策といえますが、金融危機を発端とした経済の低迷により、売上げ不足に悩む多くの赤字企業(約70%)にとってはその恩恵に浴することができず、あまり意味のない政策といえます。
 
 私は今年の「18%への引き下げ」に対して次のように考えていました。(注2)
 
 「もし、黒字法人に対する景気対策、すなわち景気刺激策としての減税というならもっと大胆な減税にすべきではないでしょうか。例えば、軽減税率の適用所得を年間所得1,000万円以下まで拡大し、その税率も10%にするくらいのことを考えても良いように思います。」
 
 私はこの程度の黒字は、事業というよりは「生業の範囲内」と考え、思いっきって軽課しても良いのではないかと思っていますが、幸いに今回の民主党の引き下げはこれに近いものとなっています。
 
 3つ目の一人オーナー会社の「役員給与の損金不算入」(注3)の廃止については、もろ手を上げて賛成します。そもそも、この規定は平成17年末に財務省がどさくさ紛れに突如上げてきたものを自民党税調が深く考えもせず取上げ、平成18年から急遽導入されたもので、我々税理士さえ、その突然の創設に驚いたものです。それも中身を見るとひどい内容で、税制が本来持つべき論理との整合性も考慮されていないものでした。そのため、日本税理士会でもこの規定の即時停止を求めていました。また、近年のように廃業数が創業数を上回り、事業者数が減少しているわが国においては、創業を奨励し、経済の活性化を図らねばならない状況下にあるにもかかわらず、この規定の創設は真っ向からこれに逆行するものでした。あまりの悪評ゆえに、導入後僅か1年で規制内容が大きく緩和され(注4)、実際にこの措置の適用を受ける企業数は初年度に比べ大きく減少したようですが、こんな理不尽な措置は一刻も早く廃止してもらわないといけません。
 
 なお、中小企業に対する支援を税制とういう限定的手段だけで行おうとしてもその実効性はそれほど高くありません。もっと総合的な対策が必要と思われます。以下、私見を一部を記します。
 
 雇用を維持するための雇用調整助成金、緊急融資制度や保証制度による金融の緩和、資金繰りの悪化を食い止めるための借入金の返済猶予、環境・消費対策としてのエコポイントやエコカー補助金などはこの時期の特別な不況対策としてそれぞれ有意義なものでしょうが、その経済効果が今後永続するというものではなく、これだけでは現在の中小企業が置かれた厳しい状況が好転するとは思われません。多くの中小企業が今まさに求めているのは売上げ不足の解消ではないでしょうか。そのためには、国民がもっとお金を使えるようになることが必要です。これまでのように輸出に頼っているばかりでは景気持続が困難で、ここはやはり国内消費の拡大を図る必要があります。よくいわれる「内需の拡大」です。
 
 そのような社会へ転換するためには、①安心してお金を使えるような世の中にすること、②家計の可処分所得を増加させること、③家計からの支出先として生活に密着した分野での産業の育成充実などの政策が必要となります。たとえば、次のようなものです。
 
1 多くの国民の将来に対するさまざまな不安要因(結婚、出産、保育、教育、就職、雇用、医療、介護、年金など)からの開放
2 お金を特に必要とする子育て世帯の可処分所得の増加
3 最低限の生活さえままならない低所得者層への可処分所得の増加
4 生活に密着した分野(結婚、出産、保育、教育、転職、医療、介護、畑、庭、食事、健康、孤独解消、安全、環境等)での産業の育成やそれぞれの制度充実
 
 これらの政策を迅速に具体化することにより、いかに多くの国民を納得させることができるか、地域に根ざす中小企業支援策としてはまさにここが問われているのではないでしょうか。すなわち、生活に根ざした分野での消費拡大を図ることにより中小企業への売上増大につなげていくという流れです。本当に必要な需要、すなわち実需の拡大。ここにポイントがあるように思われます。
 
 皆さんはどう考えますか?
 
 See you next !
 
 次回は、『民主党による税制改正』 その8 相続税・贈与税改革等 について見ていきます。
 
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(注1)中小企業者の割合(中小企業庁)
 
(注2)『税制改正』 その1 法人税の軽減税率が下がります。(KSCの「お知らせ」 2009.2.23)
 
(注3) 一人オーナー会社の「役員給与の損金不算入」(国税庁)
 
(注4)この規定の対象となる特殊支配同族会社の基準所得金額(法人の所得+オーナー役員の報酬)が適用初年度では僅か800万円であったため、税理士会をはじめ各団体等から猛反発に遭い、僅か1年で1600万円に増額され、適用企業数は激減しました。
 
 
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             札 幌 学 院 大 学  客員教授  税務会計論担当 

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