5.「最期の一手」事業承継における遺言の重要性

前回述べたのように、納税猶予制度や遺留分特例など

を上手に活用できれば、従来よりも円滑な事業承継が

可能な環境が整ったといえます。

しかし、第1回で述べたように中小企業における「事業

承継」は、あくまで「相続」です。そしてこれを言い換えれば、

事業承継とは、

「相続財産の大部分を後継者という特定の相続人が独占する相続」

なのです。

他の相続人も、事業の継続のために必要なことだと理解は

していても、現実に相続が発生した時には、不満や不公平感を

抱かないことは少ないでしょう。

昨今、相続は「争族」などと言われます。一般のサラリ

ーマン家庭と違い、中小企業経営者の家庭では、なまじ

相当な資産があるが故に「争族」の原因は少なくないと

言えます。せっかく事前に万全な準備をして事業承継を

したのに、「争族」が起こったのでは意味がありません。

このような不幸な事態を回避するための有効な手段、

それが「遺言」です。先代経営者の明確な遺志とそれ

ぞれの家族に対する想いを伝えることによって、最後の

不安要素を消すことができます。遺言によって、円滑な

事業承継と円満な相続が完結します。遺言は、経営者に

とって、いわば「最期の一手」なのです。