2年前の消費増税導入時ほどではないが、依然として「財政再建」についての議論がかまびすしい。いわく「日本の財政赤字は1,000兆円超」「このままいったら日本は近くギリシャ並みになる」「孫子の代にまで、このような借金のツケ回しをしてもいいのか」などなど。
 私は、経済学に関しては全くのド素人、門外漢なのだが、このような「財政再建論」に関しては、どうしても「はてな?」と首をかしげてしまう。「日本の財政赤字1,000兆円超」ということだが、会計についての初歩(会計「学」までもいかない)を教わると、「資産」が「負債」を超えれば黒字、逆なら赤字、負債と資本金を足したものよりもまだ少なければ「債務超過」となるということになる。とすると、日本の現在の財政赤字は1,000兆円超丸々ではなくて、負債から資産約600兆円を引いた約400兆円となるのではないだろうか(勿論400兆円でも相当の巨額ではあるのだが)。お役人や高名な経済学者の先生は、このことを知らないのだろうか。いやそんなはずはない。百も承知なのである。ただ「日本の赤字1,000兆円超」と言った方が、「これは大変だ」「大変だ」と脅かすのによいということで、この数字を使っているのではないだろうか。また日本の国民金融資産は、2014年前半で約1,500兆円もあり、これは世界でアメリカに次いで2番目に多い(日銀発表)。
 もう一つ、小泉内閣のとき、医療費の増大を抑えるとして、医療制度改革が施行されたことがあった。単年度2,200億円、5年で1兆1千億円を削減した。たった1兆1千億円だったが、国民生活へのしわ寄せは、深刻なものがあった。医療機関に6ヶ月以上入院していたり、病床数200以上の大病院の診察を紹介状なしで受けたりすると、これは「選定療養」(好き好んでで選んだ療養)だということで、前者は強制的に退院させられ、後者では初診料として2,000円也が加算・徴収された。また銚子市立病院や大月市立病院など、いくつかの公立病院が倒産し、地域住民の医療に深刻な打撃をもたらした。
 だがこれでも節約できたのは、たったの「1兆1千億円」だった。この調子で節約していくとすると、400兆円節約するのには、2000年弱、1,000兆円節約するのには、5000年弱掛かることになる。「この年月の間、痛みに耐えなさい」と言うのですか、ということになる。「この額では財政再建にはまだ不足だ、もっと早く償還しろ」というのだと、もっと国民生活に犠牲を強いることになる。これでは「孫子の代へのツケ回し」どころではなくなってしまう。
 「それではどうするのだ」「財政赤字を放置しておけというのか」「それでは余りに無責任だ」「問題外だ」という識者からの問いが返ってきそうだが、もとより私は経済については門外漢であり、有効な処方箋など出すすべもない。ただ経済施策については、まず国民生活を基準にして、国民生活を守りながらどうするのかというところから、論じていく方がよいということを、唱えたかったに過ぎない。