最近は、科学の発達が倫理や法律に影響を及ぼす報道が多く見られる。
 向井さん夫妻の代理出産もそうであるが、今日は死後生殖のことについて考えてみます。
 昨日、長野県の某医療機関が、04年に西日本の女性が病死した夫の凍結精子を使って妊娠出産した旨を公表した。
 この死後生殖で生まれた子に関して、最高裁は夫の子とは認めない判断を下している。そして、14日の日本産科婦人科学会総会でも禁止される見通しである。
 先の医療機関の院長は、「死後生殖禁止は遺産相続への悪用などを抑えるためだけの安易な発想であり、純粋な思いで生殖医療を望む患者を切り捨てることはできない」、と述べた。
 現行の民法は、認知の規定を含めて、死後生殖で生まれた子と死んだ夫との親子関係を認めていない、というより、想定していない。また、相続権については、胎児は生まれたものとみなされるため、相続権があるが、そのためには少なくとも夫が死んだ時点で妊娠していなければならない。したがって、死んだ後で妊娠しても、生まれてきた子には相続権はない。親子関係が認められないのであるから、当然といえば当然なのだが。
 この死後生殖については、イギリスでは、父親本人の書面による同意があれば親子関係は認めるが、相続権は認めていないようである。アメリカでは、原則として不可としながら、父親本人の同意があれば相続権を含め親子関係を認めている。一方、ドイツでは、死んだ人から子が生まれるのは不自然ということで認められていない。フランスでも、公序良俗に反するとか両親を持つという子供の利益に反するとかの理由で認められていない。
 この問題に対して、わが国はどのように対処していくべきであろうか。確かに、「法律は人間のためにある」のであるから、法律が時代にそぐわなくなったのであれば、改正等の法整備が必要となる。しかし、そのためには、国民一般の倫理観が、死後生殖によって生まれた子と死んだ夫との親子関係を認めることに抵抗がなくなることが要求されるであろう。
 このように見てくると、この問題の解決には相当長い時間が必要となると思われる。唯一つだけ言えることは、「愛した人の子供が欲しいと純粋に考える人の気持ちは救われなければならない」ということです。
 今回はこの辺で。