2007年 5月の記事一覧

«Prev1 2Next»
07年05月17日 15時05分45秒
Posted by: shigyo
 事案は、「高校卒業予定の者が、入社試験を受け、採用通知を受領した。採用通知を受領する 直前に、反戦青年委員会の一員として集会に参加したが、無届デモとして規制を受け、逮捕され執行猶予処分を受けたが、会社はこの事実を知らないで、採用通知をしたものであるが、後日、知るところとなり、採用取消通知をなしたもの」である。

 これは、電電公社近畿電通局事件であるが、最高裁(最判S55,5,30)は次のように判示した。
1 社員公募に応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する採用通知はこの申し込み に対する承諾であって、これにより、両者の間に、いわゆる採用内定の一態様として、労働契約 の効力発生の始期を右採用通知に明示された昭和45年4月1日とする労働契約が成立したと 解するのが相当である。
2 そして、右労働契約においては、再度の健康診断で異常が会った場合又は誓約書等を所定の期日までに提出しない場合には採用を取消しうるものとしているが、解約権の留保は右の場合に 限られるものではなく、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実 であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に 合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができる場合」をも含むと解するのが相当 であり、本件採用取消の通知は、右解約権に基づく解約申入れとみるべきである。
3 以上を前提に、会社が、現行犯逮捕、起訴猶予処分を受けるような違法行為を積極的に敢行し た者を見習社員として雇用することは相当でなく、見習社員としての適格性を欠くと判断し、本件 採用の取消をしたことは、「解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当」として是認する ことができるから、解約権の行使は有効と解すべきである。
  ここで注意しなければならないのは、採用内定を取消すことができるのは、採用通知や誓約書等 に記載された取消事由に限定されないということです。
 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。  
07年05月16日 16時03分04秒
Posted by: shigyo
 事案は、「大学卒業予定の者が、入社試験に合格し、採用内定の通知を受けて、会社の求めに応じて所要事項を記載した誓約書を提出し、就職を予定していたところ、卒業直前に突然採用内定取消しの通知を受けたもの」である。
 これは、大日本印刷事件であるが、最高裁(最判S54,7,20)は次のように判示した。
1 採用内定の法的性格については、一義的に論断することは困難として、具体的に検討する。すなわち、会社の募集に対して応募したのは、労働契約の申込みであり、これに対する採用内定通知は、その申込みに対する承諾であり、本件誓約書の提出とあいまって、これにより両者間に、就労の始期を大学卒業直後とし、それまでの間、本件誓約書記載の5項目の採用内定取消事由に基づく「解約権を留保した労働契約」が成立した解するのが相当である。
2 わが国の雇用事情に照らすとき、大学新規卒業予定者で、一旦特定企業との間に採用内定の関係に入った者は、解約権留保付であるとはいえ、卒業後の就労を期して、他企業への就職の機会と可能性を放棄するのが通例であるから、就労の有無という違いはあるが、採用内定者の地位は、「一定の試用期間を付して雇用関係に入った者の試用期間中の地位」と基本的に異なるところはない。
3 したがって、試用期間中の留保解約権の行使の判例(前に記事にした三菱樹脂事件の判例を参照)理論が同様に妥当するので、採用内定の取消事由は、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実」であって、これを理由として採用内定を取消すことが「解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的」と認められ、「社会通念上相当」として是認することができるものに限られると解するのが相当である。
4 本件では、グルーミーな印象であることは当初から分かっていたことであるから、会社としてはその段階で調査を尽くせば、従業員としての適格性の有無を判断することができたはずであり、「内定後にその印象、つまり不適格性を打消す材料が出なかったことを内定取消の理由とすること」は、社会通念上相当とは認められない。
 結局、解約権留保の趣旨・目的に照らして社会通念上相当として是認することができないから、解約権の濫用であるとしたのですね。
 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
07年05月15日 17時21分39秒
Posted by: shigyo
  14日成立した、いわゆる「国民投票法」の正式名称は、「日本国憲法の改正手続に関する法律」なのです。
 これに対して、民主党の対案では、「日本国憲法の改正及び国政における重要な問題に係る案件の発議手続及び国民投票に関する法律案」となっていました。
 そうです。民主党は、憲法改正だけでなく、国政における重要な問題についても国民の意思を問う手続として、一般的な国民投票制度の導入を目指していたのです。
 確かに、地方自治においては、住民自治が支配するため、原発の誘致など地域の重要施策について、住民投票を行い、長がそれを尊重するという構図ができつつあります。
 しかし、国政レベルで直接民主制を採用するのは、時として危険を伴います。世論が正しいとは限らないからです。
 日本国憲法が、国政において間接民主制(議会制民主主義)を基本としていることの意味を考えてみませんか。
07年05月15日 14時11分39秒
Posted by: shigyo
 事案は、「定年を55歳とするが、その後3年間定年後在職が認められていた銀行において、定年を60歳に延長する代わりに、給与等の減額が就業規則に定められたため、従来の55歳から58歳までの賃金総額が新定年制の下での55歳から60歳までの賃金総額と同程度となった。そこで、60歳で定年退職した者が、就業規則の変更は既得権を侵害するから自己には効力を生じないとして、銀行に対して賃金の差額の支払等を求めたもの」である。
 これは、第四銀行事件であるが、最高裁(最判H9,2,28)は次のように判示した。
1 新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が「合理的なもの」である限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。
2 そして、合理性の有無は、(1)変更により労働者が被る不利益の程度、(2)変更の必要性、(3)変更の社会的相当性、(4)変更手続の相当性等、を総合考慮して判断すべきであるとしている。
3 その上で、実質的な不利益が、賃金という労働者にとって重要な労働条件に関するものであるから、本件就業規則の変更は、これを受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合に、その効力を生じると解し、諸事情に照らし必要性と相当性を肯定し、当該就業規則の「合理性」を認定した。
 ここでお分かりのように、就業規則はただ作ればいいというものではなく、「合理的な内容」を有するものでなければならないというところが、ポイントです。
 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
07年05月14日 17時00分36秒
Posted by: shigyo
 最近は、駅のホームや電車の中などで、一途に化粧をしている女の人を見かけることがよくある。
 家で化粧をする時間がなかったのかもしれない。
 それにしても、私は、個人的にはこのような光景を見るのは、あまり好きではない。
 化粧の歴史的沿革はさておき、化粧は化けて、粧(装)うところに本質がある。
 で、化けるところを人に見せるのは、種明かしをしてしてから手品を人に見せるようなもので、興醒めしてしまうのです。
 女性の方、どうか、化粧は家か化粧室でお願いします。
07年05月14日 14時11分13秒
Posted by: shigyo
 事案は、「頸肩腕症候群と診断された電話交換作業従事職員に対して、会社は頸肩腕症候群の精密検査を受診するよう、二度にわたって業務命令を発したが、当該従業員がこれを拒否したため、就業規則の「上長の命令に服さないとき」という懲戒事由に該当するとして、懲戒処分をしたもの」である。
 電電公社帯広局事件であるが、最高裁(最判S61,3,13)は次のように判示した。
 業務命令の根拠は、「労働者がその労働力の処分を使用者に委ねることを約する労働契約にある」と解すべきであるとした上で、個々の労働契約と就業規則との関係を以下のように述べている。
 就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような「就業規則の規定内容が合理的なものである」かぎりにおいて、「当該具体的労働契約の内容をなしている」ものということができる。
 そして、当該就業規則の合理性を認定して、当該労働契約の内容をなしているとして、懲戒処分を適法なものとした。
 ちなみに、就業規則と労働契約の規範的効力関係は、就業規則が労働契約に優先し、したがって、就業規則に定める基準に達しない労働契約は、その部分については無効となることに注意を要します。
 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
07年05月12日 15時19分53秒
Posted by: shigyo
 事案は、「就業規則を変更し、これまでの定年制度を改正したため、それまで定年制の適用がなかった者が定年制の対象となり、解雇されたもの」である。
 これは、秋北バス事件であり、最高裁(最判S43,12,25)は次のように判示した。
 就業規則の法規範性を認めた上で、「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されない」と解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、「当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」と解するべきであるとしました。
 つまり、就業規則が合理的なものであれば、労働者は、就業規則の存在・内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるということです。
 使用者は、就業規則の作成・変更をする場合、労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者の「意見」を聴かなければなりませんが、「同意」までは必要ないということには、注意する必要があります。
 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
07年05月09日 16時18分16秒
Posted by: shigyo
 事案は、「3ヶ月の試用期間を設けて採用された者が、採用試験の際に提出を求めた身上書の所定の記載欄に虚偽の記載をし、または記載すべき事項を秘匿し、面接試験における質問に対しても虚偽の回答をしたことを理由として、試用期間の満了直前に、本採用を拒否されたもの」である。
 有名な三菱樹脂事件であるが、最高裁(最判S48,12,12)は次のように判示した。
1 企業者は、経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇用するに     当たり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであって、企業者が特定の思想・信条を有する者をそのゆえをもって雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。
2 また、当該雇用契約を解約権留保付の雇用契約と認め、採用拒否は雇入れ後における解雇に当たるとし、当該留保約款の合理性を肯定した上で、留保解約権に基づく解雇と通常の解雇とを区別し、前者の場合は後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものとした。
3 そして、企業者が、採用決定後における調査により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇用しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨・目的に徴して、「客観的に相当であると認められる場合」には、さきに留保した解約権を行使することができる。
 この判例については、様々な憲法上の論点を孕む上に、企業者の裁量を広く認めすぎているきらいもあるが、「客観的相当性」がない場合には留保解約権を行使することができない、という点には注意しなければならない。
 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)
07年05月08日 19時14分05秒
Posted by: shigyo
 今回から、労働関係に関するものも記事にしたいと思っています。
 まず手始めは、試行雇用契約と試用期間の違いです。
 試行雇用契約は、「試用を目的とする有期労働契約」であって、企業が労働者の適性や能力を見極めた上で本採用にするか否かを決めるものです。
 これに対し、試用期間というのは、「期間の定めのない労働契約」であることを前提に、試用期間を設けるものです。
 この両者は、概念的には「契約存続期間」と「試用期間」と明確に区別することができるのですが、具体的ケースでは問題になることがあります。
 そこで、最高裁は、「使用者が労働者を新規に採用するに当たり、その雇用契約に期間を設けた場合において、その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは、右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、右期間は「契約の存続期間」ではなく、「試用期間」であると解するのが相当である。」と判示しています(最判H2・6・5)。
 つまり、このような場合、原則として期間の定めのない契約における「試用期間」であって、例外的に期間満了で当然に雇用契約が終了するとの明確な合意がなされているような特段の事情があるときに限って、「契約存続期間」となる、というものです。
 メールによるご相談は、m-sgo@gaia.eonet.ne.jpまでお気軽にどうぞ(無料)。
07年05月07日 19時07分30秒
Posted by: shigyo
 読んだ方も多いと思いますが、一昨年末に出版され、ベストセラーとなった藤原正彦氏の「国家の品格」を読む機会に恵まれた。
 氏は、現在の荒廃した社会は、「論理」や「合理精神」が破綻した結果ではないかと主張されている。
 その内容には立ち入らないけれども、戦後、我が国は祖国への誇りや自身を失うように教育され、すっかり足腰の弱っていた日本人は、世界に誇るべき我が国古来の「情緒と形」をあっさり忘れ、市場経済に代表される、欧米の「論理と合理」に身を売ってしまい、「国家の品格」をなくしてしまった、と論じている。
 そして、日本は、金銭至上主義を何とも思わない野卑な国々とは、一線を画す必要があり、日本人一人一人が美しい情緒と形を身につけ、品格ある国家を保つことは、日本人として生まれた真の意味であり、人類への責務と思うと述べられ、ここ4世紀間ほど世界を支配した欧米の教義の破綻から世界を本格的に救えるのは、日本人しかいない思う、という言葉で結ばれている。
 中々うなずける箇所があり、興味深い一冊であった。
 今回はこの辺で。
07年05月02日 19時01分10秒
Posted by: shigyo
 以前にも、大手消費者金融会社が貸出審査を厳格化していることは記事にしましたが、その流れは止まらないようです。
 消費者金融は、これまで、いわゆる高金利のグレーゾーン金利で多数の顧客に貸し出すことにより、返済できない顧客による損失を上回る利益を上げてきました。しかし、昨年末に成立した改正貸金業規制法は、平成21年末までに、個人ローンの上限金利を利息制限法並みの15~20%に引き下げるほか、借り手一人当たりの貸付総額に上限を設ける総量規制を導入しています。
 こうなると、不良債権が生じないようにしなければ、収益の悪化は避けられません。
 大手4社の今年2月の新規貸付の平均契約率は、44,5%であり、前年同期の64,3%と比べると、約20ポイント低下しており、実に2人に1人が融資を断られているのです。
 また、これまでの高金利に頼った経営戦略のツケが、今のしかかっているのです。消費者金融大手4社の今年3月期連結決算の最終赤字が、合計1兆円規模に上る見通しであることが、先月17日に判明しております。これは、利息制限法の上限を超える「過払い利息」の返還請求の増加に歯止めがかからず、引当金の一層の積み増しを、せざるを得なくなっているからなのです。
 大手各社は、店舗閉鎖や人員削減など大胆なリストラだけでなく、貸出審査の厳格化という経営方針によって、生き残りを賭けようとしています。
 その一方で、中小の消費者金融会社は、規制強化を受けて銀行やノンバンクが中小業者への融資を手控えるようになったため、廃業が続出しているのです。
 これまで大手から新規貸付を断られた人は、大手より審査が緩い中小業者に頼ってきたが、中小業者の廃業により、どこからも借りられない人は、どこから融資を受けるのであろうか。ヤミ金に走らないことを祈るのみである。
 今回はこの辺で。
07年05月01日 18時30分51秒
Posted by: shigyo
 長崎市長選は、まだ終わっていない。
 田上新市長が当選した翌日の4月23日から、「選挙は無効だ、やり直せ」などの嫌がらせ電話が相次いでいるという。そのため、市長の公式行事には私服警官を付けたり、市長の自宅周辺の警備強化を余儀なくされている。
 確かに、田上氏と横尾氏の得票数は953票の僅差であって、しかも、前市長の「伊藤一長」と書かれたものなどの無効票が1万票を超えるという混乱ぶりからすれば、いわば「世襲派」の気持ちも分からないではない。
 しかし、横尾氏が当選できなかったのは、自分が無効票を投じたからではないのか。
 私は、政治家の世襲制には前から疑問を持っていた。親が政治家としての資質や能力を有していたとしても、その子供に同様の資質や能力が備わっているとは限らないからだ。
 勿論、子供に政治家としての資質や能力が備わっているのであれば、親の「地盤」「看板」「カバン」を利用して、当選することに異議を唱えるものではない。
 長崎市民は、実質3日という選挙戦により、横尾氏の政治家としての資質や能力を判断することができなかったため、課長職にあった田上氏を選ばざるを得なかったのであろう。
 それにしても、自分の思った人が当選しなかったからといって、脅迫まがいのことをするべきではない。言葉の暴力は、時として有形力を伴った暴力よりも恐怖心を与えることがある。
 わが国の民主主義のバロメーターを見た思いであった。
 今回はこの辺で。
«Prev1 2Next»