事案は、「二度にわたり転勤の内示があった者が、母が高齢(71歳)であり、保母をしている妻も仕事を辞めることが難しく、子供も幼少である(2歳)という家庭の事情により転居を伴う転勤には応じられないとして、これを拒否したところ、二度目には本人の同意がえられないままに転勤が発令された。しかし、これに応じなかったところ、就業規則所定の懲戒事由に該当するとして懲戒解雇されたもの」である。

 これは、東亜ペイント事件であるが、最高裁(最判S61,7,14)は次のように判示した。
1 会社の労働協約及び就業規則には、業務上の都合により従業員に転勤を命ずることができる旨の定めがあり、現に従業員、特に営業担当者の転勤を頻繁に行っており、・・・・・・・・、両者の間で労働契約が成立した際にも勤務地を大阪に限定する旨の合意はなされなかったという事情の下においては、「会社は個別的同意なしに勤務場所を決定し、これに転勤を命じて労務の提供を求める権限を有する」ものというべきである。
2 転勤命令権を濫用することは許されないが、「当該転勤命令について業務上の必要性が存しない場合、または業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではない」というべきである。
3 そして、業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働力の適正配置、業務能率の増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである。
4 本件転勤命令については、業務上の必要性が優に存在し、本件転勤が与える家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものであるので、本件転勤命令は権利の濫用には当たらない。
 通常、会社は転勤命令を出すことができるが、業務上の必要性がない場合や他の不当な目的でなされるとか、転勤により通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合などには、権利の濫用になり転勤命令は認められないということです。
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