株式会社設立は、発起人による定款の作成で始まります。定款に必ず記載しなければならない事項は、(1)目的、(2)商号、(3)本店の所在地、(4)設立に際して出資される財産の価額又はその最低額、(5)発起人の氏名又は名称及び住所、の5つだけです。これらは絶対的記載事項といって、この中の一つでも記載してなかったり、記載内容が法律に違反するときには、定款そのものが無効となります。しかし、実際には、何十条もの記載がある定款が通常です。
 それは、絶対的記載事項以外に、定款に必ずしも記載する必要はないが、定款に記載しなければ効力を生じない相対的記載事項があるからなのです。また、絶対的記載事項・相対的記載事項以外のことでも、公序良俗や株式会社の本質に反しない事項は、定款変更手続が厳格なため法的安定性を求めて定款に記載することが普通なのです(任意的記載事項)。
 新会社法は、この相対的記載事項を大幅に増やし、定款自治を拡大しています。このことは、株式会社における定款の重要性を意味しています。例えば、株式会社の機関設計を見てみましょう。株式会社の必置機関は、株主総会と取締役のみです。これは、全部株式譲渡制限会社(非公開会社)は、大規模公開会社をその本質とする株式会社より、むしろ小規模閉鎖的な有限会社に近い実態を有しているため、会社法で株式会社と有限会社を一体化するに当たり、有限会社においてのみ認められていた機関設計を認めることにしたものです。そして、取締役会、監査役、会計参与などは定款に定めることによって置くことができるようにしました。
 それでは、取締役しかいない会社と取締役会も設置している会社とを見てみましょう。株主総会の権限の大小もさることながら、一般人としては、前者はワンマン経営のイメージがあるのに対し、後者は取締役が3人以上の合議により業務執行の意思決定を行っているため、適正な経営のイメージが概してあります。また、取締役会設置会社は監査役を置かなければなりませんが、取締役会を設置していない会社でも、監査役か会計参与(取締役と共同して計算書類を作成する会計のプロ)を設置していたとしたらどうでしょう。会計処理をチャンとやっている会社として、会社に対する社会的信用が増すでしょう。もっとも、形だけの監査役や会計参与では困りますが。
 このように定款自治が拡大したということは、定款を見れば、この会社はどのような会社なのか、どのような理念をもって、どのような経営を行おうとしているのか、が分かるということです。ここに定款の重要性があります。実際、登記事項ではない重要事項が定款記載事項とされていることもあり、銀行の融資実務においても、定款の重要性が再認識されているようです。
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 今回はこの辺で。