この7月に、政治評論家・森田実氏の講演を聞く機会があった。またその数日後、元社会党書記長のS氏を囲む会があった。
森田氏はその10日ほど前、自民党・二階幹事長の仲介で、安倍首相と会っている。氏は大学の大先輩で、56年の砂川基地拡張反対闘争では大動員を呼びかけて、凄惨な闘いによって測量中止に追い込むという、勝利の立役者となった。現在は辛口の政治評論家として、あちこちでコメントや評論を発表している。
講演は当然ながら現在の時局を語ることが中心となった。安倍一強といっても、積年の病弊のせいで、受け皿さえあれば、極めて脆い。東京都議選では、都民ファーストの会がその受け皿となった。ただ次の国政に向かって小池知事が途中で転身しても、都民の支持は得られないだろう。そうかといって民進党は絶対に受け皿になり得ない。そこがどうなるかだ。この後何もできなければ、安倍政権は野垂れ死にするしかないだろう、と言う。
今後の政治の要諦としては、近隣諸国と仲良くして、平和に過ごすことである。日本の今の生活は、戦後70年、平和に暮らすことで守られてきた。諸国と対立し抗争しても何もいいことはない。とりわけ中国と仲良くすることが大事である。今の日本では、二階幹事長が中国派だし、公明党もそうである。ここで一際大きく声を張り上げて、公明党が平和勢力であることを私は疑ったことはないと指摘した。
 ここからは私の考えだが、 最近の世論調査では、中国に対して「好感が持てない」が80%で、「持てる」が20%だという。田中角栄の日中国交回復当時は、この数字は全く逆だった。これはマスメディアの煽動の影響があると思うが、もう一つ、中国がGDPで日本を追い越して世界第二位となったことにも反感を掻き立てているのかなとも思う。要するに何でもかんでも日本がアメリカに次いで世界第二位でないと気が済まないのである。最近では「いや世界第二位は日本だ」と主張する著作まで現れている。
だがデービッド・アトキンソンは「新・所得倍増論」で、GDPは一人あたりいくらで計算すべきであるという至極まっとうな論を展開している。それによると日本は世界第27位、輸出は世界第44位であり、一人当たりの生産性は極めて低い、とりわけ1995年以降の「失われた10年」のあとの生産性の低下は著しいと指摘している。すなわち中国とどちらが上かなどとやっかみ競争をしている水準ではないということなのである。
森田氏の話に戻ると、総じて、今後の日本の政治にかなり希望を燃やせる講演だったと言えようか。
S氏を囲む会では、91歳という年齢にもかかわらず、足腰は多少弱っているものの、極めて頭脳明晰なS氏の話にみな共感した。自分はかつて1961年当時、社会党東京都本部書記長だったS氏の推薦をもらって労組の書記局に入ったことがある。ただ今後の民進党については、前原と枝野の代表選挙に多少期待をかけているところも見受けられたが、そのあたりはどうだろうか。今年の春には高齢であるにもかかわらず、訪中したということである。この先もずっと健やかでおられることを願うばかりである。