民法734条は、直系血族又は三親等内の傍系血族間の婚姻を禁止している。近親婚の禁止は、その範囲に広狭があるとはいえ、各国に共通している。この「血族」には、自然血族だけでなく法定血族をも含み、前者は優生学上の配慮に基づき、後者は倫理的観念に基づくものとされている。
 また、厚生年金保険法は、遺族厚生年金を受けることができる遺族としての「配偶者」には、婚姻届をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むと規定している。
 ここにおいて、民法の近親者間の婚姻禁止規定に違反する内縁関係が、遺族厚生年金の受給権に影響を及ぼすのかどうか、という問題が生じてきます。
 この点に関して、42年間に亘って叔父と内縁関係にあった女性が、「近親婚は民法で禁止されている」との理由で不支給処分をした社会保険庁を相手取り、その処分の取消しを求めた訴訟の最高裁判決が、8日ありました。判決は、「親子のような直系血族間や兄弟のような傍系血族間では、反倫理性、反公益性が大きく受給権は認められない。このことは、三親等の傍系血族間の内縁関係も基本的には変わらない。」とした上で、「叔父と姪のような三親等間の内縁関係については、経緯や周囲の受け止め方、期間や子供の有無などに照らし、反倫理性や反公益性が著しく低いと認められるような特段の事情があれば、受給権が認められる。」として、請求を棄却した二審判決を破棄し、受給資格を認めた一審判決を支持したのです。
 最高裁の判決は、叔父と姪のような三親等間の内縁関係であれば、常に受給権が認められるとしたのではなく、反倫理性・反公益性が著しく低いと認められるような特段の事情があれば、受給権が認められるとしたことに注意を要します。
 一般に、法の解釈適用は、法的安定性と具体的妥当性との調整にあると解されていますが、概して法的安定性を重視すれば具体的妥当性に欠け、逆に具体的妥当性を重視すれば法的安定性に欠ける、という結果をもたらします。最高裁は、具体的妥当性を選択したものと思われますが、今後、社会保険庁はどのような事情があれば、受給権が認められる「特段の事情」に当たるのかという判断を迫られることになります。
 今回はこの辺で。