労働関係の記事については、難しいという意見が寄せられていますので、事案・判旨ともに分かりやすさを心掛けていきたいと思っています。
 事案は、「反物、毛皮、宝石の販売等を営む会社の新入社員が、一人で宿直中に、窃盗の目的で来訪した元従業員に殺害された事件に関して、新入社員の親が会社に対して損害賠償の請求をしたもの」である。
 これは、川義事件であるが、最高裁(最判S59,4,10)は次のように判示した。
1 雇用契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、「使用者は、右の報酬支払義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示の下に労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている」ものと解するのが相当である。
2 本件の場合、「宿直勤務の場所である本件社屋内に、宿直勤務中に盗賊等が容易に侵入できないような物的設備を施し、かつ、万一盗賊が侵入した場合は盗賊から加えられるかもしれない危害を免れることができるような物的施設を設けるとともに、これら物的施設等を十分に整備することが困難であるときは、宿直員を増員するとか宿直員に対する安全教育を十分に行うなどし、もって右物的施設等と相まって労働者の生命、身体等に危険が及ばないように配慮する義務があった」ものと解すべきである。
3 そして、本件では、右義務の不履行があり、かつ、義務の履行があれば殺害という事故の発生を未然に防止しえたとして因果関係を認め、会社の損害賠償責任を肯定した。
 安全配慮義務違反による損害賠償責任は、労働契約に基づく債務不履行責任でありますから、不法行為に基づく損害賠償責任と異なり、落ち度がないことを債務者たる会社の方で立証しなければならないことに注意しましょう。
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