事案は、「Xは、経営幹部や特殊技術者等の人材をスカウトして紹介・就職させる、いわゆるヘッドハンティング業者であり、また職業安定法32条に基づく労働大臣の許可を得た有料職業紹介事業者であった。Xは、診療所の経営者であったYとの間で昭和62年7月、右診療所に勤務する医師を紹介し就職させる契約を締結した。 Xは訴外Z医師をYに紹介し、平成元年4月、YはZを年俸1000万円の条件で採用した。YはXに対し、平成元年3月30日、右紹介等に対して調査活動費50万円、報酬200万円の他、Zの年俸1000万円の15%相当額150万円の合計を平成元年6月末日までに支払う旨約した。Xは、右合意に基づきYに対し約定の報酬金の支払いを求めたもの」である。 なお、労働大臣の許可を得て行う有料職業紹介においては、受けることができる紹介手数料は、職安法32条6項、同法施行規則24条14項によってその上限が定められており、その制限によれば、本件においてはZの6か月分の賃金の100分の10,1相当である50万5000円を超える手数料を受けてはならないとされている。したがって、Xの主張が認められるかどうかは、スカウト行為が職安法にいう「職業紹介」に当たるかどうかに係っている。
 これは、東京エグゼクティブ・サーチ事件であるが、最高裁(最判H6,4,22)は次のように判示した。
1 職業安定法にいう職業紹介におけるあっ旋とは、求人者と求職者との間における雇用関係成立のための便宜を図り、その成立を容易にさせる行為一般を指称するものと解すべきであり、右のあっ旋には、求人者と求職者との間に雇用関係を成立させるために両者を引き合わせる行為のみならず、求人者に紹介するために求職者を探索し、求人者に就職するよう求職者に勧奨するいわゆるスカウト行為も含まれるものと解するのが相当である。けだし、同法は、労働力充足のためにその需要と供給の調整を図ることと並んで、各人の能力に応じて妥当な条件の下に適当な職業に就く機会を与え、職業の安定を図ることを目的として制定されたものであって、同法32条は、この目的を達成するため、弊害の多かった有料の職業紹介事業を行うことを原則として禁じ、公の機関によって無料で公正に職業を紹介することとし、公の機関において適切に職業を紹介することが困難な特別の技術を必要とする職業に従事する者の職業をあっ旋することを目的とする場合については、労働大臣の許可を得て有料の職業紹介事業を行うことができるものとしたものであるところ、スカウト行為が右のあっ旋に当たらず、同法32条等の規制に服しないものと解するときは、以上に述べた同法の趣旨を没却することになるからである。この理は、スカウト行為が医師を対象とする場合であっても同様である。
2 職業安定法32条6項は、有料職業紹介の手数料契約のうち労働大臣が中央職業安定審議会に諮問の上定める手数料の最高額を超える部分の私法上の効力を否定し、右契約の効力を所定最高額の範囲内においてのみ認めるものと解するのが相当である。けだし、・・・・・・立法趣旨にかんがみ、同条項は、右手数料契約のうち所定最高額を超える部分の私法上の効力を否定することによって求人者及び求職者の利益を保護する趣旨をも含むものと解すべきであるからである。
 契約自由の原則の中で、判決が、立法趣旨から所定最高額を超える部分の私法上の効力を否定したのは、妥当である。
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