事案は、「タクシー会社Yは、自動車の実働率を上げるために乗務員の出勤率を高めることを目的として、昭和40年頃から、ほぼ交番表(月ごとの勤務予定表)どおりに出勤した者に対して、皆勤手当を支給する制度を採用してきた。昭和63年及び平成元年にYが労働組合との間で締結した労働協約では、交番表に定められた労働日数及び労働時間を勤務した乗務員に対し、昭和63年度は1ヶ月3100円、平成元年度は同4100円の皆勤手当を支給するが、「公私傷病休又は欠勤」が1日のときは昭和63年度は1ヶ月1550円、平成元年度は同2050円を右手当から控除し、2日以上のときは支給しないこととした。  Yの従業員であるXは、昭和63年5月から平成元年10月にかけて、5回にわたり年休を取得したところ、Yは年休の取得は右労働協約所定の公私傷病休または欠勤に該当するとして、それぞれにつき皆勤手当を控除した。なお、この皆勤手当の額のXの給与月額に対する割合は、最大で1,85%であった。 本件は、右皆勤手当の控除に対して、Xがその支払いを請求したもの」である。
 これは、沼津交通事件であるが、最高裁(最判H5、6,25)は次のように判示した。
1 労基法134条の規定からすれば、使用者が、従業員の出勤率の低下を防止する等の観点から、年次有給休暇の取得を何らかの経済的不利益と結びつける措置を採ることは、その経営上の合理性を是認できる場合であっても、できるだけ避けるべきであることはいうまでもないが、右の規定は、それ自体としては、使用者の努力義務を定めたものであって、労働者の年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されない。また、右のような措置は、年次有給休暇を保障した労基法39条の精神に沿わない面を有することは否定できないものではあるが、その効力については、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効となるとすることはできないと解するのが相当である。
2 本件事実関係のもとでは、Y会社は、タクシー業者の経営は運賃収入に依存しているため自動車を効率的に運行させる必要性が大きく、交番表が作成された後に乗務員が年次有給休暇を取得した場合には代替要員の手配が困難となり、自動車の実働率が低下するという事態が生ずることから、このような形で年次有給休暇を取得することを避ける配慮をした乗務員については皆勤手当を支給することとしたものと解されるのであって、右措置は、年次有給休暇の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではないと見るのが相当であり、また、乗務員が年次有給休暇を取得したことにより控除される皆勤手当の額が相対的に大きいものではないことなどからして、この措置が乗務員の年次有給休暇の取得を事実上抑止する力は大きなものではなかったというべきである。
 本判決は、附則134条は単に訓示規定に過ぎず、不利益取扱の判断については、別途に公序違反の問題として考察すべきであるという見解です。
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