事案は、「Xらは、Y航空会社の日本支社従業員であり、その従業員らで組織する労働組合に所属し、本件ストライキ当時は大阪、沖縄の各営業所に勤務していた。組合は、羽田地区におけるY社従業員と派遣会社の派遣する下請従業員との混用を職業安定法44条に違反すると主張。Y社もその要求の一部を受け入れ、一定部門における正社員化の方針などを回答したが、組合はこれを承服せず、あくまで下請従業員の直傭化を要求して、1ヵ月半にわたり東京地区の組合員をもってストライキを決行、同組合員らは羽田空港内のY社の業務用機材約70台をハンガー(格納家屋)に持ち去り、これを占拠した。その結果、Y社飛行便の大部分が欠航を余儀なくされ、大阪および沖縄営業所の従業員各12名(計24名)が就労を必要としなくなったとして休業を命じられた。 そこで、Xら19名は、主位的には休業期間中の未払い賃金の支払を、予備的には同期間中の休業手当の支払を求めて訴えを提起したもの」である。
 これは、ノースウェスト航空事件であるが、最高裁(最判S62,7,17)は次のように判示した。
1 労働者の一部によるストライキが原因で、ストライキに参加しなかった労働者が労働をすることが社会観念上不能又は無価値となり、その労働義務を履行することができなくなった場合、不参加労働者が賃金請求権を有するか否かについては、当該労働者が就労の意思を有する以上、その個別の労働契約上の危険負担の問題として考察すべきである。このことは、当該労働者がストライキを行った組合に所属していて、組合意思の形成に関与し、ストライキを容認しているとしても、異なるところはない。
2 ストライキは労働者に保障された争議権の行使であって、使用者がこれに介入して制御することはできず、また、団体交渉において組合側にいかなる回答を与え、どの程度譲歩するかは使用者の自由であるから、団体交渉の決裂の結果ストライキに突入しても、そのことは、一般に使用者に帰責さるべきものということはできない。したがって、労働者の一部によるストライキが原因でストライキ不参加労働者の労働義務の履行が不能となった場合は、使用者が不当労働行為の意思その他不当な目的をもってことさらストライキを行わしめたなどの特別の事情がない限り、右ストライキは民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」には当たらず、当該不参加労働者は賃金請求権を失うと解するのが相当である。
3 休業手当の制度は、・・・・・・・・労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、・・・・・・・・・・使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たってはいかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に(平均賃金の6割)の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない。このようにみると、右の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであって、民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。
 本件では、ストライキは組合が自らの主体的判断とその責任において行ったものであるとして、使用者の帰責性を認めず、賃金も休業手当も否定されています。ただ、判決は、賃金請求権と休業手当請求権とは競合しうるとの前提に立っていることに注意を要します。
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