事案は、「Xは、Y会社に技術者として勤務する者で、事件当時、工業学校卒業後に入社して以来14年近くが経っていた。この間、Xは、Y会社の従業員で組織する訴外A組合において様々な役職に就いたことがあったが、事件発生時には役職になく、組合主流派を労使協調路線と批判する立場をとっていた。 そのXが、他の数名と手分けして、昭和43年大晦日から翌44年元旦にかけての深夜に、Y会社の従業員社宅へビラ約350枚を配布した。ビラは、発行者の表示がなく、その内容は、Y会社に関して、(1)70年革命説を唱え反共宣伝をしている、(2)差別・村八分をはじめおよそ常識と法に反して労働者を締め上げている、(3)他の会社より低い給料・少ない賞与を押し付けている、(4)種々の既得権を取り上げてきた、などの事実を指摘し、(5)日本有数の大会社の正体がどんなにきたないものか、どんなにひどいものかを体で知ったと論評し、(6)ことしこそ以前にもましてみにくく、きたないやり方をするだろうと予想し、また、(7)会社の悪巧みや策動を・・・・・・公然と暴露すべきで、会社はそのことを最も恐れているとか、(8)会社は自分で自分の首をしめており、天に向かって唾するもの、還りて己が面を汚すとはY会社のことだとする記載があった。 Y会社は、こうしたビラ配布が就業規則の懲戒事由である「その他特に不都合な行為があったとき」に該当するとして、Xを最も軽い懲戒である譴責処分に付した。これに対して、Xは、譴責処分の無効確認などを求めたもの」である。
 ビラの内容が問題となったので、少し長くなりましたが、これは、関西電力事件であり、最高裁(最判S58,9,8)は次のように判示した。
1 労働者は、労働契約を締結して雇用されることによって、使用者に対して労務提供義務を負うとともに、「企業秩序を遵守すべき義務を負い」、使用者は、広く企業秩序を維持し、もって企業の円滑な運営を図るために、その雇用する労働者の企業秩序違反行為を理由として、当該労働者に対し、一種の制裁罰である懲戒を課すことができるものであるところ、「右企業秩序は、通常、労働者の職場内又は職務遂行に関係のある行為を規制することにより維持しうるのであるが、職場外された職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許される」のであり、右のような場合を除き、労働者は、その職場外における職務遂行に関係のない行為について、使用者による規制を受けるべきいわれはないものと解するのが相当である。
2 これを本件についてみるに、右ビラの内容が大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲してY会社を非難攻撃し、全体としてこれを中傷誹謗するものであり、右ビラの配布により労働者の会社に対する不信感を醸成して企業秩序を乱し、又はそのおそれがあったものとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができないではなく、その過程に所論の違法があるものとすることはできない。・・・・・Xによる本件ビラの配布は、就業時間外に職場外であるY会社の従業員社宅において職務遂行に関係なく行われたものではあるが、前記就業規則所定の懲戒事由にあたると解することができ、これを理由としてXに対して懲戒として譴責を課したことは、懲戒権者に認められる裁量権の範囲を超えるものとは認められない。
 職場外の職務遂行と関係のない行為に対する懲戒は、労働者の企業秩序遵守義務、使用者の企業秩序維持確保を根拠としていることに注意する必要があります。
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