事案は、「Y会社は、訴外A.Bが就業時間中に上司に無断で職場を離脱し、就業中の他の労働者に対して、原水爆禁止の署名を求める等の就業規則違反の事実を明確に把握するため、Xに対しても事情聴取を行ったが、Xは反問し、あるいは返答を拒否した。そこで、Yは、Xが右調査に協力しなかったことは、「従業員は上長の指示に従い・・・・・職場の秩序を守り、・・・・・努めなければならない。」と定める就業規則の規定、また、「従業員は秩序を維持するため、会社の諸規則、命令を守らなければならない。」と定める就業規則の規定に該当するとして、Xを懲戒譴責処分に付したもの」である。

 これは富士重工業事件であるが、最高裁(最判S52,12,13)は次のように判示した。
1 企業秩序は、企業の存立と事業の円滑な運営の維持のため必要不可欠のものであり、企業はこの企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもって一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、「企業秩序に違反する行為があった場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができる」ことは、当然のことといわなければならない。
2 しかしながら、企業が企業秩序違反事件について調査をすることができるということから直ちに、「労働者が、これに対応して、いつ、いかなる場合にも、当然に、企業の行う調査に協力すべき義務を負っているものと解することはできない。」けだし、労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることによって、「企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負うが、企業の一般的な支配に服するものということはできない」からである。
3 この観点すれば、「当該労働者が他の労働者に対する指導、監督ないし企業秩序の維持などを職責とする者であって、右調査に協力することがその職務の内容となっている場合」には、右調査に協力することは労働契約上の基本的義務である労務提供義務の履行そのものであるから、調査に協力すべき義務を負うものといわなければならないが、「右以外の場合」には、調査対象である違反行為の性質、内容、当該労働者の右違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無等諸般の事情から総合的に判断して、「右調査に協力することが労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的であると認められない限り、右調査協力義務を負うことはない」ものと解するのが、相当である。
4 以上を前提に、右調査に協力すべきことがXの職務内容となっていたことは、原審の認定しないところであり、また、Xが右調査に協力することがXの労務提供義務の履行にとって必要かつ合理的であったとはいまだ認めがたいとして、Xには本件調査に協力すべき義務はなく、したがって、右義務のあることを前提としてされた本件懲戒処分は違法無効である、とした。
 要するに、社内調査における協力義務の有無は、(1)調査協力が職務の内容となっているか、(2)調査協力が労務提供義務を履行する上で必要かつ合理的といえるか、という観点から判断しなければならないということです。
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