トランプについての本を探していたところ、書店で「トランプは世界をどう変えるか?」と題するエマニュエル・トッドと佐藤優の著作(朝日新書)を見つけて読んでみた。トランプについては、世上、言っていることが極端だとか、暴言が多いとか、これは選挙で勝つための訴えだから、大統領になったら現実的になるのではないかなど、様々な説が乱れ飛んで物議をかもしていた。この際大統領当選を読み違えたかどうかは大した問題ではない。
 だがトランプが赤狩りのアメリカ・マッカーシーの主任顧問だったロイ・コーン(54年にどちらも米上院で解任される)と知り合いになり、その後弁護士となって陰然たる力を持つようになったコーンがトランプの公私とものメンター(指導者、助言者)となって今日に至っているという下りには、ビックリした。そんな話はほとんど知られてはいない。このコーンは、51年のローゼンバーグ事件(原爆スパイ事件)の時の検事で、ローゼンバーグと一緒に妻も電気イスに送ったのは、自分が判事に働きかけたからだと自慢するような人物である。
 それを受けて佐藤優氏は、今後のアメリカを見極めるための3つの指標として、①いわゆる孤立主義への回帰、②FBI(選挙戦間際にトランプに加担した)の政治化、③国内の敵探しが始まる危険な兆候の3つを挙げ、マッカーシーとトランプの「両者を受け入れたアメリカの病理を問いたい」としている。②はなかなか表には出てきづらいが、③はすでに反対意見者の解任として表面化している。
 一方、トッド氏は、「これはアメリカ民主主義だ。民主主義が選んだのがトランプだ」と、アメリカ民主主義の前に跪き、ひたすらトランプを受け入れるのに汲々としているかのようである。もっともこれはかつてフランスが示した移民差別について自覚のない「シャルリー・エブト」擁護デモについての自省を含んでいるのかもしれない。
 一方そうは言っても、日本も他国のことばかりは言っていられない。アメリカでは、自分の意見は(これは芸能人も含めて)はっきりと表明するのが常である(2大政党のうちに含まれるからかもしれないが)。これは日本よりもよほどしっかりしている。それに対して日本では、余り自分の意見は表ざたにしない、できない。「長い物には巻かれろ」「寄らば大樹の影」、「見ざる言わざる聞かざる」の3猿に徹するということである。これは徳川治世260年間に馴致(飼い習わ)された習慣によると、オランダの政治学者・カレル・ヴァン・ウオルフレンがその著「日本権力構造の謎」ではっきりと指摘している。
 とはいえ、トランプの今後の姿勢は、まだ不分明のところはあるが、大統領になったら言っていたことが現実的な姿勢になるということは、まずあり得ないのではないか。選挙期間中に言ってきたことを実現するために突っ走るのではないだろうか。